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2025年11月号 過活動膀胱の鍼灸治療

過活動膀胱とは、尿意切迫感(急に起こる我慢できない強い尿意)が特徴的な病気で、頻尿や夜間頻尿、尿漏れ、切迫性尿失禁(尿意切迫感があってトイレに間に合わず漏れてしまう)といった症状を伴うことがあります。
排尿のコントロールは、主に自律神経系が行っていますが、交感神経、副交感神経の働きが乱れたり、膀胱が過剰に反応したりすることが原因で、少量の尿でも膀胱が収縮してしまう状態です。40歳以上の14%が過活動膀胱の症状を経験し、そのうち半数が切迫性尿失禁を経験しているという調査結果もあります。
過活動膀胱の治療は、まず、「行動療法(水分摂取の調整、骨盤底筋体操、膀胱訓練)」や「薬物療法(抗コリン薬やβ3作動薬)」から行い、改善が見られない場合はボトックス膀胱内注入療法や磁気刺激療法などの方法が検討されます。しかし、完全に治すことが難しい場合もあり、生活や仕事に支障を生じることも多く、QOL(生活の質)を大幅に低下させ問題です。

中国医学では、過活動膀胱は五臓の「腎(じん)」、「肝(かん)」や「心(しん)」が関係する疾患と考えています。「腎」は、水液を司る臓腑です。尿は六腑の「膀胱」に貯蔵され、「腎」の作用によって排泄が調節されます。「腎」と「膀胱」は密接な関係にあり、両者の連携により、排尿がコントロールされます。「肝」は、身体の諸機能を調節し、情緒を安定させる働きを持つ臓腑です。自律神経系を介して排尿の調節に関与しています。

「腎」が、加齢や生活の不摂生、過労、慢性疾患による体力低下などで、「腎虚(じんきょ)」になる場合や、精神的なストレスや、心配、不安、緊張の持続などにより、「肝」の身体の諸機能を調節(疏泄:そせつ)する作用が失調する「肝鬱気滞(かんうつきたい)」になると、自然な排尿ができなくなり、過活動膀胱を引き起こします。また、「心」は、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動を司ります。過度の心労などにより、「心」に負担がかかり、「心」の機能が過度の刺激を受けて亢進すると、「心火(しんか)」(脳の興奮状態)を引き起こします。「心火」が旺盛な状態が、ふと気を抜いた時などに少しでも緩和されると、急に副交感神経が優位になり、過活動膀胱になります。

中国医学治療(鍼灸治療、漢方薬)で、「腎」,や「肝」の機能を回復させるために、「午車腎気丸」「抑肝散」を服用することにより、過活動膀胱が改善され、「腎」や「肝」の機能が安定すると、自然な排尿を行えるようになります。また、「心火」を弱めるために、「清心蓮子飲(せいしんれんしいん)」を服用し、尿意切迫前の脳の興奮状態を緩和することにより、過活動膀胱を軽減できます。
同じ過活動膀胱の症状であっても、体質や原因にそれぞれ合わせた中国医学治療を行うことで、根本的に回復させることが期待できます。

投稿者:tcm-editor

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