中国医療と不妊治療 〜統合医療とは〜
Fertility treatment
西洋医学と中国医学の良い部分を合わせた不妊治療は、欧米では既に多くの医療機関で取り入れられています。これを統合医療と呼びます。 また、中国で始められた、月経周期にあわせて漢方薬を使い分けて妊娠確率を高める周期療法は、高い治療効果が認められています。
A:最先端の高度生殖医療と、中国医学(鍼灸治療・漢方薬治療)の治療を併用する統合医療による不妊治療は、既に世界中で多くの医療機関で取り入れられ、治療効果も認められています。
中国の新聞で、2006年11月、ドイツと中国の不妊治療の合同研究結果が発表されました。最先端の高度生殖医療による不妊治療と鍼灸治療を併用する事により、体外受精妊娠率が50%近く向上するというものです。研究チームは、中国医学に基づいて鍼灸治療を行うことで、子宮筋肉の緊張が軽減され、血液などの循環が改善し、さらにホルモン分泌や自律神経の調節をする等の効果から、受精卵が子宮に着床しやすくなり、妊娠率が向上しているのではないかとみています。
また同年、日本の新聞では、体外受精を5回以上行っても妊娠できなかった不妊症の女性114人に鍼灸治療を併用したところ、約40%にあたる49人が妊娠に至ったと、明治鍼灸大学の研究グループが、日本生殖医学界で報告したと紹介されていました。当院で不妊治療を受ける方も多く、2003年11月、国際学会(北京)で、私は臨床研究の立場から不妊症、月経不順、さらに多嚢胞卵巣症候群という難治性の婦人科疾患を患った女性を、鍼灸、漢方薬のみによる治療法で無事出産、という事例を発表しました。中国医学は独自の生理観、病理観及び診断、治療方法を持つ、もう一つの医学です。
「妊娠を希望しているのに思うようにいかない」
「病院で不妊症の治療を受けているがなかなか改善されない」
「体外受精や人工授精を何回も受けていますがだめでした」など不妊症に悩む夫婦は非常に多い。
現代医学の女性における不妊症の原因は、排卵障害、輸卵管閉塞、子宮内膜症、免疫性不妊などに分類され、不妊治療が進められるが、現代医学による不妊治 療の成功率は通常20%~28%といわれている。そこで中国医学(鍼灸治療・漢方薬)と高度生殖医療(不妊専門外来)を併用することで成功率を引き上げる 「統合医療」が、欧米では多くの医療機関で取り入れられ始めている。中国医学では、不妊症を大きく以下のように分類し、問診から総合的に診断し、それぞれ の型(タイプ)にあった適切な治療を行う。
腎虚型(じんきょがた)…子宮発育不良や基礎体温の失調、稀発月経、腰や膝がだるい、ホルモンのアンバランス、排卵障害など
血虚型(けっきょがた)…めまいや動悸を起こしやすい、全身の倦怠感、体型痩弱、顔の血色が悪い、生理周期の遅れ、経血量が少ないなど
肝鬱型(かんうつがた)…ストレス、イライラ、自律神経失調、月経前の胸の張り、生理不順で生理痛を伴う、ホルモンの乱れなど
痰湿型(たんしつかた)…胸のつかえ、むかつき、めまい、動悸、おりものの量が多い、生理周期の遅れ
瘀血型(おけつがた)…子宮筋腫、内膜症、卵管狭窄、付属器の炎症、経血にレバー状の塊を含むなど
鍼灸・漢方薬治療では、以下のような効果があります。
ホルモンのバランスを改善し、妊娠しやすい状態を保つ。
卵巣の機能を向上させ、質の高い卵子が育てられる。
不妊治療薬の副作用を軽減する。
子宮の血行を促進し、受精卵の着床を安定させる。
過度の排卵誘発剤の使用で低下した卵巣機能を回復させる。
不妊治療から受けるストレス、体調不良や精神面の不安を解消する。
西洋医学と中国医学の良い部分を合わせた不妊治療は、欧米では既に多くの医療機関で取り入れられている。中国で始められた、月経周期にあわせて漢方薬を使い分けて妊娠確率を高める「周期療法」は、高い治療効果が認められている。周期療法は月経周期(月経期、低温期、排卵期、高温期)に合わせて異なる漢方薬を処方するが、各時期の基本的な治療方針は以下のようになる。
月経期: 活血薬と理気薬を併用して、子宮内の血液をきれいに排出させる。
低温期: 補陰血薬に少量の補陽薬を併用して、子宮内膜を増殖し成熟卵胞を育てる。
排卵期: 補精薬と活血薬を併用して、排卵をスムーズにする。
高温期: 補陽薬に少量の補陰血薬を併用して、受精卵を子宮内に着床させ妊娠を継続できるようにする。
さらに、鍼灸治療の併用も不妊治療の現場で積極的に行われている。
周期療法ドイツと中国の研究チームがまとめた米生殖医療学会誌に掲載された報告によると、人工、体外受精の前後に、女性の身体をリラックスさせる鍼治療と子宮内の血流を改善する鍼治療を行うと、妊娠率が大幅に向上するという。同チームは、体外受精をうける女性160人を2つのグループに分け、一方に体外受精の際、受精卵を子宮に戻す前後に鍼治療を実施した。もう一方のグループには、鍼治療をせず通常の体外受精を行った。その結果、鍼治療を受けたグループの妊娠率が 42.5%に上り、通常治療の26.3%を大幅に上回った。
このように最先端の高度生殖医療と、鍼灸・漢方薬の治療を併用することで、妊娠成功率を引き上げる効果が期待できる。
不妊治療に対する通常の鍼灸治療は、子宮や卵巣をはじめ身体全体の血流を改善し、ホルモンバランスを整え、妊娠する力を向上させる体質づくりが主です。
最近、もう一つ注目されている効果があります。それは、体外受精前後に鍼灸治療をす ると、子宮内の血流が促進され、お腹の冷えを取り除き、心身の緊張やストレスが緩和され(リラックス効果)、妊娠しやすくなることです。体外受精時の胚移 植の前後に鍼灸治療をすると、その後の妊娠率や出産率が高まるという調査結果は、メリーランド大学医学部統合医療センター(米)によって報告されています。
鍼灸治療が体外受精の成績に及ぼす影響については、生殖医療学会においても、いくつかの論文が発表されています。
欧米4ヶ国の1366名の女性を対象にした調査では、体外受精時の胚移植の前後に、
1.伝統的な鍼灸治療を受けたグループ
2.偽の鍼灸治療を受けたグループ
3.鍼灸治療を行わなかったグループ
という3つにグループ分けし、その後の女性たちの結果を比較したところ、1.の伝統的な鍼治療を受けたグループは他のグループに比べて、妊娠した割合が65%も高く、さらに、出産に至った割合は2倍であることが分かりました。
このことから体外受精時の胚移植の前後の鍼灸治療は、その後の妊娠率や出産率を向上させることに役立つことがわかっています。
****** CNNニュース 2010年5月の記事より *****
「〈セリーヌ・ディオンさん、体外受精で双子を妊娠〉カナダの歌手セリーヌ・ディオンさん(42)が、双子を妊娠していることを明らかにした。現在、妊娠十四週目で、来月には性別が分かるという。ディオンさんは家族を増やしたいと不妊治療を続けており、6度目の体外受精で妊娠に成功。妊娠の確率を高めるため、鍼治療にも通っていた。2人の間には9歳の男の子がいる。」
※ 2010年10月23日、双子の男児を出産
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子宮内膜形状不良などの内膜障害
高プロラクチン血症などの機能性不妊
不妊症における鍼灸治療は、子宮内膜形状不良などの内膜障害と高プロラクチン血症の患者さんに対しても治療効果大です。鍼灸治療により骨盤内腔の環境が改善して子宮機能を高め、子宮内膜が正常化します。また強いストレスにより、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)が過剰に分泌されることが原因の機能性不妊にも、ストレスを緩和できる鍼灸治療は、とても有効です。
東洋医学による不妊治療の歴史は長く、中国の古典『諸病源候論(しょびょうげんこうろん)』、『黄帝素問女胎(こうていそもんじょたい)』などに記されています。
最近の研究ではツボ(経穴)である「三陰交(さんいんこう)」への刺激が女性ホルモンの一種であるエストロゲンの濃度を高めるといった報告もされ、鍼治療の有効性が認められています。 不妊治療では、西洋医学と鍼灸の治療を併用することにより妊娠の可能性を高めることができます。
冷え性は、女性によく見られる症状です。身体が冷えているということは、単純に全身の血流が悪いと考えられます。 妊娠するためには、子宮などの血流がスムーズで、胎児にどんどん栄養を送り込める状況であることが大切であり基本です。下半身が冷えると血液の循環が悪くなり、子宮や卵巣に血液やホルモンが行き渡らないために、子宮や卵巣の機能が低下し、不妊の原因となるのです。 中国医学では、「冷え性」を、
ホルモンバランス異常型の冷え性
自律神経失調型の冷え性
低血圧型の冷え性
貧血型の冷え性
~ 不妊症に対する鍼灸治療の効果 ~
ホルモンバランスを改善し、妊娠しやすい状態にする。
卵巣機能を向上させ、質の良い卵子を育てられる。
子宮の血行促進により受精卵が着床しやすくなる。
排卵誘発剤の使いすぎで低下した卵巣機能が回復する。
不妊によるストレスと体調不良、精神面の不安を解消する。
腹部や下半身の冷え症状を改善する。
西洋医学によるホルモン剤などの副作用を軽減する。
冷え症=不妊症ではないが、不妊症に悩み来院される方の多くが冷え症体質である事が多い。冷え性体質では、代謝の低下によって女性ホルモンのバランスが崩れ、女性特有の病気を引き起こしやすくなる。
女性が妊娠するメカ二ズムは、ホルモンによって制御されており、ホルモンバランスの崩れは、卵巣の機能低下などに直接影響し、不妊の原因となる。 中国医学的には、冷え性は、不妊や生理不順の大きな原因の1つと考えられている。
冷え性によって身体全体の血液循環が悪くなると、身体機能が低下し、生殖機能に悪影響を及ぼす。特に生殖器官のある下半身は、冷えの影響を受けやすい。子宮や卵巣が冷えると、生理痛、生理不順、子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣膿腫などを引き起こしやすく、排卵障害や着床障害を引き起こす可能性もある。不妊症には、まず冷え性を治療することが大切。
さらに、妊娠後は、赤ちゃんを温かい子宮の中で育てるためには「冷え」は禁物。 鍼灸治療は、不妊症のツボに温熱作用を与え、卵巣、子宮など骨盤底内器官の血流を改善し、各機能を向上させ、妊娠しやすい体質にすることができる。
【冷え性のタイプ】
1.ホルモンのアンバランス
思春期、妊娠、出産、更年期などで、ホルモン分泌が乱れ、生理不順、顔面のほてり、汗をかきやすい等の症状とともに冷え性が起こる。
2.自律神経失調症
交感神経、副交感神経が、血管の拡張や収縮を上手く調節できず、手足の末端の血行が悪くなる。
3.低血圧症
心臓が血液を送り出すポンプの力が弱い為に、手足の末端まで血液を十分に届ける事ができない。
4.貧血症
血液が少なく、血液中のヘモグロビンや栄養素も不足し、細胞の熱源になる栄養素を運べなくなる。
西洋医学と中国医学の良い部分を合わせた不妊治療は、欧米では既に多くの医療機関で取り入れられ、治療効果も認められています。最先端の高度生殖医療と、中国医学(鍼灸・漢方薬治療)の治療を併用し、妊娠成功率を引き上げます。
中国では、古くから生理痛・生理不順・子宮筋腫・子宮内膜症・不妊症など様々な婦人科疾患に鍼灸治療や漢方薬治療が行われてきました。鍼灸・漢方薬治療で妊娠しにくい体質から、妊娠しやすい体質へと改善し、妊娠する確率の向上を目指すのです。不妊症は女性だけの問題ではなく、不妊症に悩む夫婦の40%は男性にも原因があるという調査結果もあります。
中国医学は生命力の土台作りが得意
西洋医学では、不妊治療は生殖器系統を中心に治療しますが、中国医学では生殖器系統のみではなく、身体のすべての臓器、血液、体液やリンパ液を含むすべてのバランスを改善させることこそが重要と考えています。
さらに中国医学では、精神的なストレスが、身体の臓器などに大きく影響し、体調不良、不妊症の原因になることが多いことから、精神やストレスなどに対しても同時に治療を進めていきます。(精神と身体は相互に関連して生命活動を行っているという観点を中国医学は大切にしています)
このように中国医学の治療では、漢方薬や鍼灸治療で夫婦の「心(精神状態)」と「体(身体全体)」のバランスをととのえ、”より自然なかたちで赤ちゃんと出会える”為の準備とも言える身体の土台作りを中心に治療します。
患者様の体力、精神状態は、西洋医学的な手段での治療の際、不妊治療を支える大きな土台となり、不妊治療がスムーズに進みます。しっかりとした身体作りは妊娠へ向けての基礎でありますが、今後の患者様ご夫婦が、これからの人生を歩む上での財産にもなります。
西洋医学と中国医学、お互いのメリットを享受する
積極的な西洋医学での不妊治療を受ける中で、お母さんの体力が虚弱だと妊娠に至りにくいだけでなく、たとえばやっとの思いで着床まで至ったとしても、子宮に力が十分になく、母体自体の生命力が弱いので、残念ながら流産してしまう恐れもあります。
西洋医学の先進的な技術力と中国医学の体質改善(体力などの底上げ)の力、両者の力を上手く合わせることで、それぞれの治療の不足を補い合い、より良いメリットを享受できるようにすることが大切です(統合医療の実践)。
身体全体を漢方・鍼灸治療で整えることで、薬剤の服用量を減らせたり、排卵される卵子の状態がよくなることがあります。ご夫婦の体力や生命力を底上げすることで、西洋医学的な不妊治療の直接的な助けになれます。
例えば、月経に関するトラブルは、ただ単に子宮などの生理的な問題ではなく、身体全体の問題の影響で起こる場合が多いです。中国医学的な観点から月経を整えるには、中国医学独自の診断方法で、患者様の体質を診断し、治療方針を立てていきます。同様に不妊治療も患者様の体質を詳しく診断し、以下のタイプに分類し、それぞれのタイプに合わせ体質改善治療を行ってゆく事が重要です。
①腎虚型 | 生理周期が遅れる 経血色が淡い、色が薄い 希発(きはつ)月経 倦怠感が強く腰膝がだるい 性欲の低下 尿の色が薄く量が多い |
②血虚型 | 生理周期が遅れる 経血量は少なく、色が淡い 体型は痩弱 顔の血色が悪い 眩暈や動悸を起こしやすい 全身がだるく倦怠感を伴う |
③肝鬱型 | 生理不順であり生理痛を伴う 経血量は少なく色が暗い おりものに小さな血の塊が混ざる 生理前にイライラする、乳房が張ったりしこりができる 精神不安定になりやすく、怒りっぽい |
④痰湿型 | 体型は肥満気味 生理周期が遅れる おりものは量が多く、質は粘稠性 顔色は黄色っぽい 胸の痞(つか)え及びむかつき、眩暈や動悸を伴う |
⑤瘀血型 | 生理周期が遅れやすい 経血量は少なく色は黒紫 生理痛がある、経血にレバー状のものが混じる 腹部の痛みを伴い押えると痛みが増す |
上記は、症状や状況をそれぞれのタイプに分類し箇条書きしたものですが、実際の診断では、中国医学の診断法(四診)に基づき、さらに細かく問診し、証(みたて)を立て分類して治療します。
鍼灸・漢方薬治療では、以下のような効果があります。
・基礎体温を整える…ホルモンバランスを改善し、妊娠しやすい状態を保つ
・薬剤が効きやすい身体づくり…過度の排卵誘発剤の使用で低下した卵巣機能を回復させる
・不妊治療薬の副作用を軽減する
・しっかり排卵するようにする…卵巣の機能を向上させ、質の高い卵子が育つ
・ふんわり着床できる子宮内膜づくり…子宮の血行を促進し、受精卵の着床を安定させる
・卵管采がよく動くようにする
・ストレスのない身体づくり…不妊治療から受けるストレス、体調不良や精神面の不安を解消する
・妊娠反応が出たら“安胎”の治療を始める
・西洋医学の薬などの副作用を軽減する
・お腹やお尻、足の冷え症状を改善する
・流産後の身体の回復、及び体力の向上、免疫抵抗力の活性化
不妊症の漢方鍼灸治療の歴史は非常に長く、中国では多くの古い文献に不妊治療の事が記載されています。現代中国の医療現場でも、漢方鍼灸治療の不妊治療に対する効果は実証されており、多くの患者様が中国医学の不妊治療を受けておられます。科学的な検証も進み、「ホルモンのバランスを整える漢方鍼灸治療で、妊娠率が向上する」という研究結果が、中国国内だけではなく、欧米でも多くの研究チームによって同様の報告がされています。
最近は、冷え症の若い女性が増えています。昔の人は、妊娠しない女性のことを「石女(うまずめ)」と呼んでいました。これは石のように冷たい“冷え症”の女性のことであり、冷え症は昔から不妊を招きやすいものと認識されていまいした。
中国医学では冷え性体質から、骨盤内器官が冷えてしまうと妊娠しにくくなると考えています。お灸で不妊症の経穴(ツボ)に温熱作用を与えて、さらに漢方薬・鍼治療で身体全体を調整することによって、子宮の血流がよくなり、卵巣、子宮など骨盤内器官の機能が改善され、受精卵が子宮内に着床しやすい、妊娠しやすい、骨盤内器官・体質に改善することができます。
また、昔から婦人科疾患のことを「血の道症」と呼び、漢方鍼灸治療を行ってきました。漢方鍼灸治療は不妊症治療以外にも生理不順・無月経・更年期障害・生理痛・子宮内膜症などの婦人科疾患にも効果があります。
中国医学とは、中国四千年の長い歴史なかで積み上げられた“経験”に基づいた医学であり、鍼灸・湯液・按摩・食養などにより成り立っています。 「天人合一思想(てんじんごういつしそう)」などの言葉にも象徴されますが、東洋的な自然哲学思想に基づいて理論化され、現代も我々の生活にも大切なものとして息づいています。
そもそも鍼灸をはじめとする中国医学は、「病名」を中心に診断・治療するのではなく、「病人」を中心に考えて治療します。つまり、頭痛の人には鎮痛効果の高い漢方薬を服用すればいい…などといった短絡的な治療ではなく、頭痛を起こした根本原因を探り、さらに症状・体質・生活環境などその人全体をから、「証」という“みたて”を導き出し、それに基づいて根本治療を進めていきます。
中国医学の独特のとらえ方として、身体や心を構成している気・血・水と、「陰陽」「表裏」「虚実」「寒熱」などの二元論が基礎概念となっています。
これらのバランスがとれた状態を「健康」な状態とし、逆に気・血・水などの不調和が病的な状態、または疾病に至る前段階の状態(未病)と考えます。
この患者様には何が不足しているのか?あるいは何が過剰しているのか?冷えているの?熱があるのか?様々な角度から分析し、自然に治る力を促進させることに主眼をおいて治療していきます。
不妊治療 臨床例①
“第二子不妊を克服、36才女性”
2004年に第一子を帝王切開術(逆子)で出産。
2006年、第2子を計画するも、なかなか妊娠に至らず。 。
2009年6月に婦人科を受診、「早期閉経の疑い・卵巣機能低下」と診断される。同年十月に当院を受診。 当院で、婦人科での不妊治療を始める前に、中国医学のみによる体質改善のための鍼灸治療を約4ヶ月間、続けられた。 。
2010年 3月から、さらに、鍼灸治療と併用して先端医療による不妊治療も行い、排卵誘発剤、人工授精、ホルモン剤による治療も始められた。見事に1回目の人工授精治療で妊娠に至る。。
その後は、2週間に1回、妊婦の体調管理のための鍼灸治療を継続し、順調な経過をたどられて、無事に第二子を出産される。
今回の不妊症の方は、
・全身の冷えが強く、特に手足と腹部が冷たい
・夏の冷房でよく体調を崩す
・体型は痩せ型で、下痢しやすい
・以前に貧血と診断されたこともある
・第一子を出産後は、月経周期は不順になり、月経期間は短く、月経血量も減少
これらを中国医学的な角度から、分析・診断すると「脾腎陽虚タイプ(ひじんようきょタイプ)」であった。
簡単に説明すると、虚弱体質で特に腹部に冷えがある状態をいう。冷えによって身体全体、特に今回の場合は下腹部の血流が悪くなっているために、子宮や卵巣が冷えてしまい、月経痛、月経不順、排卵障害や着床障害を起こしやすい状態になっていた。
このような子宮や卵巣など、妊娠に必要な生殖器官の機能が低下した状態を正常な状態に改善するための鍼灸治療は、とても有効。「冷えタイプ」の不妊症に効果のある経穴(ツボ)に温熱作用を与え、体調を調整することによって、妊娠しやすい体質へと改善させていく。
中国医学の体質改善の力と西洋医学の先進的な技術力を上手く合わせることで、それぞれの治療の不足を補い合うことが大切。
不妊治療 臨床例②
“多嚢胞性卵巣症候群を克服して出産”
2000年5月 月経不順と不妊で婦人科を受診。多嚢胞性卵巣症候群と診断され、排卵誘剤、卵胞ホルモン、黄体ホルモン等での治療を始める。
2000年12月 なかなか妊娠に至らず、当院を受診。2001年1月 ホルモン剤などを服用するも副作用が強く、服用をやめ、婦人科での治療を中止。 当院で、鍼灸治療を続ける中、月経周期が改善され安定。月経にまつわる不調も軽減。
2002年2月まで1年間、当院で治療されたが、1年ぶりに月経周期が延びたので婦人科を受診すると妊娠が判明。
2002年10月 無事に元気な男子を出産(当時30才)。現在は、3児の母親に。
多嚢胞性卵巣症候群では、全く排卵しなくなってしまう場合と、時々排卵する場合、月経周期が延びてしまう場合、黄体機能不全になる場合、など症状は様々。どの症状をとっても不妊に直結する大きな問題。
今回の不妊症の方は、中国医学的に分析すると、
・頭痛、肩こり、月経が遅れる
・生理痛が強い
・月経血にレバー状の血の塊が含まれる
などの症状から「瘀血(おけつ)タイプ」と診断。
瘀血(おけつ)とは、うっ血や血行障害など血の流れの滞り、または、それによって引き起こされる様々な症状を指す。鍼灸治療では、骨盤底の血流を改善し、 新鮮な血液が十分に卵巣や子宮に行き渡るようにすることで、卵胞の発育を促し、排卵や着床を促進させた。さらに、根源的に身体全体の血流を改善する治療を 継続し、妊娠しやすい身体づくりを行う。
鍼灸治療には、
・ホルモンバランスを改善し、妊娠しやすい状態を保つ
・卵巣の機能を向上させ、質の高い卵子を育てる
・子宮の血行促進により、受精卵の着床を安定させる
などの効果がある。
中国医学の体質改善の力と西洋医学の先進的な技術力を上手く合わせることで、それぞれの治療の不足を補い合うことが大切。
不妊治療 臨床例③
“鍼灸による不妊治療で自然妊娠。42歳女性”
2010年6月交通事故後遺症(むち打ち)の治療に来院、痛みがひどいために、週2~3回来院し鍼灸治療。
5回の治療を経て痛みやしびれの症状が改善し始めた頃、不妊症で悩んでいると相談される。
晩婚だが(39歳で結婚)子供がほしいので婦人科を受診。卵管閉塞も無く、全て正常ということで、薬による不妊治療を始めたが、副作用が強く出るため断念したという。 そんなことで鍼灸による不妊治療を始めることにした。
2010年の7月から週3回の鍼治療を行い、体温計測し、排卵周期にタイミング法を行った。 12月に月経が遅れたので、婦人科で妊娠検査を受けたところ、見事に妊娠が認められた。 翌年、2011年8月に無事出産。
今回の不妊症の方は、中国医学的に分析すると、
・めまいや立ちくらみを起こしやすい
・生血圧が低い、全身の倦怠感、顔の血色が悪い
・生理周期が遅れる、経血量が少ない
などの症状から「血虚(けっきょ)タイプ」と診断。
中国医学でいう血虚とは、「血(けつ)」が不足している状態。西洋医学でいうと貧血に似ているが、単に「血」が足りないというだけでなく、「血」の持つ濡養(栄養・滋潤)作用が不足した状態。
また「血」には、ホルモンの働きの一部も含まれているため、血虚状態では、子宮内膜が薄くなって経血量が減少し、生理の期間が短くなる、無月経、卵子が小さく質が良くないなどの症状から不妊症に至る。
鍼灸治療で「三陰交(さんいんこう)」「血海(けっかい)」「足三里(あしさんり)」などの経穴(ツボ)の補血作用で、血虚の体質が改善し、月経周期が正常化され、ホルモンバランスの回復から卵子の質の向上、子宮内膜が厚くなり、妊娠しやすい体質へと改善できる。
不妊治療 臨床例④
“黄体機能不全を克服して妊娠”
黄体とは、排卵した後、卵巣にある卵胞が変化して作られる妊娠に必要な器官。黄体は、プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌し、受精卵の子宮内膜への着床や、体温を上昇させて妊娠を維持する重要な働きを担っている。
黄体機能不全とは、黄体からのプロゲステロンの分泌が少ない状態。プロゲステロンが少ないと、子宮内膜が十分に厚くならない(受精卵の受け入れ準備が整わない)ので、受精卵が着床しにくく、不妊症の原因となる。
2007年5月 稀発月経(43-45日周期)、過長月経、不妊で婦人科を受診。黄体機能不全と診断され、排卵誘剤(クロミッド)での治療を始める。
2009年8月 妊娠に至らず、当院を受診。
2009年9月 婦人科と当院の鍼灸治療を併用すること1ヶ月。妊娠するも、7週で流産。その後、当院で、鍼灸治療を続け、月経周期の改善。
2010年6月 妊娠が判明。 2011年4月 無事に出産。(28才)。
今回の不妊症の方は、中国医学的に分析すると、
・手足の冷え、肩こり
・月経が遅れる、生理痛
・腰痛
などの症状から「腎陽虚(じんようきょ)タイプ」と診断。
中国医学では、西洋医学でいうホルモン分泌と腎は、密接な関わりがあると考えられており、黄体ホルモンの不足、すなわち腎陽虚が原因であると診る。
この腎陽虚が根本にある不妊症の場合、腎陽のエネルギーが弱いため、身体の陽気が損なわれ、下半身の冷えや下腹部(子宮)の冷えを生じ、結果的に黄体ホルモンの不足、卵胞の発育や黄体の機能低下などの生殖器系の機能低下が引き起こされる。
鍼灸治療では、「温補腎陽(おんぽじんよう)」の作用のある経穴(ツボ)腰部にある腎兪(じんゆ)や、腹部の関元(かんげん)、中極(ちゅうきょく)、三陰交(さんいんこう)に鍼灸することで、身体を温め、生殖器系の機能を向上させ、妊娠しやすい体質へと改善できる。